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『ダンサー・イン・ザ・ダーク』

ひとことで言うならビョークがすばらしいということ。ビョーク演じるセルマの存在感は鮮烈だった。彼女なくしてこの映画はありえない。

舞台は1960年代アメリカ。世界は冷戦真っ只中だ。
主人公セルマは移民のシングルマザーで、遺伝性の病のため弱視でありいずれ失明するという運命を持っている。その性質は一人息子のジーンにも受け継がれているが、セルマはジーンに目の手術を受けさせるためにアメリカにわたってきたのだ。
彼女はミュージカルと息子を心のより所とし、昼間は工場で働き家では夜は内職をし必死に貯金をしている。
そんな過酷な人生がその才能を育てたのだろうか。彼女は、ほんの些細な音やリズムから、美しく鮮やかな世界を作り出してみせる。そうして一時だけ現実から逃避する。貪欲なまでに。それがこの映画のミュージカルシーン。
ビョークの悲壮と恍惚のようなあの歌声にどんどん引き込まれてしまう。
ジェフと線路を行きつつ歌うシーン。「アイブ・シーン・ザット・オール」
彼女がすでに失明していることを、観ているものはジェフとともに悟る。映像だけならどことなく甘やかにすら感じられるのに、歌詞の内容は違う。自分に言い聞かせるようにうそぶくのだ。

"もう見るものはない"
"こころに刻むがいい もうなにも要らないと"
殺人の起こったよく晴れた真昼。まどろむようなひかりの中での歌。
"黒い夜が降りてくる"
"バカなセルマ あなたが悪いのよ"

色彩の鮮やかさに息を呑む。あとはもう悪いほうへ悪いほうへ転がっていくだけ。
最後のシーンは、息もできないほどにびっくりしてしまった。だけれども、本当はそんなこと少しもかまわない。
私には、最後から二番目の歌で観るのをやめるなんて思いもよらないことだから、目の前でひとつの物語の幕が下りるところを見つめるほかない。

 

 

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